高血圧性心疾患と心筋梗塞との間に相当因果関係があると認められなかった事例

2 上記認定した事実に基づき、本件の問題点を検討し、判断する。
(1) 社会保険庁では、国民年金法及び厚生年金保険法の障害の程度等を認定する基準として「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」(以下「認定基準」という。)を定めているが、給付の公平を期するための尺度として、当審査会もこの認定基準に依拠するのが相当であると考えるものである。
 認定基準の第1/一般的事項には、初診日及び相当因果関係について、次のように規定されている。
 初診日とは、障害の原因となった傷病について初めて医師又は歯科医師(以下「医師等」という。)の診療を受けた日をいい、具体的には次のような場合が初診日とされる。
[1] 初めて診療を受けた日(治療行為又は療養に関する指示があった日)
[2] 同一傷病で転医があった場合は、一番初めに医師等の診療を受けた日
[3] 障害の原因となった傷病の前に、相当因果関係があると認められる傷病があるときは、最初の傷病の初診日
そして、ある行為(事象)からそのような結果が生じるのが経験上通常である場合に、両者の間には相当因果関係が認められ、相当因果関係のある前後の傷病は同一傷病として取り扱われる。
 そこで、本件では、上記認定基準に照らして、当該高血圧症と当該傷病との間に相当因果関係が認められるかどうかを検討する。
(2) 前記1の(2)で認定したように、請求人は、平成9年2月24日にFクリニックを受診し、高血圧に対する治療を受けたことが認められることから、請求人に係る高血圧症(以下「当該高血圧症」という。)の初診日は、同日であると認定できる。
 ところで、請求人は、胸痛を主訴として同クリニックを受診した旨を申し立てているところ、当時、「気分が悪かった」と訴えていたことは認められるものの、同クリニックの診療録が廃棄されているため、当該胸痛の性状及び心電図所見(なお、審理期日において、請求人は、心電図検査を受けたかどうかについては記憶がない旨を陳述している。)等により、当該胸痛等が当該傷病に特徴的な前駆的症状又は所見であったかどうかを検討することは不能である。
 次に、当該高血圧と請求人に係る心筋梗塞(以下「当該心筋梗塞」という。)についてみてみると、前記1の(3)で認定したように、高血圧が心筋梗塞発症の主要な危険因子のひとつであることは、種々の疫学研究の結果から医学的に広く認められているところであるが、このことは、ただちに高血圧を有する者が心筋梗塞を発症することが通常の事柄であることを意味するものではないため、障害給付に係る障害認定上、当該高血圧症と当該心筋梗塞との間に相当因果関係があると認めることは困難である。
 また、医学的観点から、高血圧症と高血圧性心疾患との間には相当因果関係が認められるものの、当該高血圧性心疾患の症度は軽く、当該傷病の障害は、主として当該心筋梗塞によるものと判断できるところ、高血圧性心疾患は心筋梗塞発症の危険因子のひとつにすぎず、高血圧性心疾患を有する者が、心筋梗塞を発症することが通常の事柄であるというのは困難であるから、障害認定上、当該高血圧性心疾患と当該心筋梗塞の間に相当因果関係があると認めることは困難である。
 以上にみてきたように、当該高血圧症と当該傷病との間に相当因果関係があるということはできない。

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